📌 この記事の要点
- 売上ゼロの朝に打ち込んだプロンプトは、完璧さより素人的な問い掛けが有効である。
- AIは『答えをくれる機械』ではなく『自分の考えを映す鏡』として機能する。
- 恐怖や迷いは『変化を求めるサイン』であり、それを質問に変えることが第一歩になる。
- ゼロからの事業構築は『ippo(一歩)』の積み重ねであり、完璧なプロンプトは存在しない。
- 困りごとをそのままAIに質問することが、AI活用を始める最小限の許可である。
2023年4月1日。朝6時。名刺も顧客も、実績も信用もない状態で、僕はパソコンの前に座った。
トヨタ自動車を辞めた翌日の朝である。24年間働いた組織を離れて、個人で何かをはじめる——その恐怖は想像以上だった。
売上はゼロ。取引先はゼロ。顧客からの問い合わせもゼロ。あるのは、開業届とノートパソコン、そしてアカウントを作ったばかりのChatGPTだけ。
僕は、そのChatGPTに、生まれて初めてのプロンプトを打ち込むことにした。その一文が、今の事業の原点になっている。
この記事では、その朝に何が起きたのか、なぜAIに頼ったのか、そして僕たちが現在、どのようにAI活用で事業を組み立てているのかを、等身大で語る。AIに踏み出す勇気が出ない読者のために。
名刺もゼロ、売上もゼロ——その朝、何が起きたか

開業初日の朝は、想像以上に静寂に満ちていた。
サラリーマン時代は、朝7時に出社して、すでに10人の同僚がいた。朝礼があり、今日のタスクが与えられた。自分は何をするべきかが、常に「外から」決められていた。
しかし、この朝は違う。すべてが僕の判断に委ねられている。誰も指示をくれない。誰も期待もしていない。社内システムも、営業マニュアルも、ブランド力もない。
あるのは、無の状態だけ。そしてその無に直面したとき、人間は初めて「何をしたいのか」と問い始める。
僕の場合、その問いの答えは「生成AIを使って、ビジネスの現場を変えたい」というぼんやりとした想いだった。トヨタで24年、品質管理や業務改善に携わる中で、「同じ作業を何度も繰り返す非効率さ」を見てきた。その世界を、AIが変えるんじゃないか——その直感だけが、僕の開業の理由だった。
売上を作る前に、「何が分かっていないのか」を整理する

朝6時のパソコンの前で、僕が最初にやったことは、営業マニュアルを作ることではなかった。
素早く売上を作ろう、という焦りもあった。だが、その焦りと同時に、僕は「自分たちが何をできるのか、何をやるべきなのか、さっぱり分かっていない」という事実に直面した。
知識の空白を認識することが、最初のプロンプトの出発点だった。
ChatGPTに打ち込んだのは、こんな質問だった: 「生成AIを使ったビジネスコンサルティングを立ち上げたいのですが、まず何から始めればいいですか?」。シンプルで、素人くさい質問である。しかし、その素人質問こそが、僕の経営判断の土台になった。
ChatGPTは、大きく3つのカテゴリを示してくれた。(1)市場調査、(2)ターゲット顧客の定義、(3)自分たちの差別化要因。その三点を整理するまで、売上を追うなという、暗黙のメッセージだった。
恐怖をフレームワークに変える——三つの質問

「で、僕たちって何なんだ?」
この問いに、正直に向き合うのは、思うより苦しい。なぜなら、答えがないからだ。
サラリーマン時代の僕は、「トヨタの品質管理エキスパート」という肩書きに守られていた。その肩書きを失った瞬間、「ぐっさんって、誰なんだ?」という問いが重くのしかかる。
だが、その恐怖を3つの質問に変えることで、道が見えてきた。ChatGPTとの対話の中で、僕は問い始めた: 「(1)現場で見てきたことで、一般的には知られていないこと、(2)サラリーマン時代に『ここは改善できる』と感じたこと、(3)AIを使って、それが実現できるのか」。
その三つの問いに答えることで、差別化要因が浮かび上がった。個人的な経験を「売り物」に変えるプロセスが、初めてスタートしたのだ。
AIは「鏡」である——考えを整理する道具としての使い方

多くの人が、ChatGPTを「答えをくれる機械」と誤解している。
だが、開業初日の僕が気づいたのは、AIは「自分の考えを映す鏡」だということだ。プロンプトを打ち込むたびに、自分が実は何を考えているのか、どこで迷っているのか、その輪郭が浮かび上がる。
たとえば、最初のプロンプトに対するChatGPTの返答を読んで、僕は「あ、自分はターゲット顧客を想定できていないんだ」と気づいた。その気づきが次のプロンプトを生む。次のプロンプトで、また新しい空白が見つかる。その反復の中で、事業の輪郭がぼんやりと浮かび始めた。
AIに「答え」を求めるのではなく、「自分の考えをテストする道具」として使う——その姿勢が、ゼロからのスタートを前に進めてくれた。
「何が売れるか」より「何が困っているか」を聞く

開業から1ヶ月間、僕は営業を一切しなかった。
その代わりに、元同僚や知人に、こう聞いて回った: 「今の仕事で、AIで解決できたら嬉しいことって、何ですか?」
その質問に対する返答が、現在の事業の骨組みになっている。営業マニュアルを作るのではなく、市場の「痛み」を集める。その痛みが事業の羅針盤になることを、僕は経験で知っていた。
売上ゼロの状態では、営業トークは無意味だ。あるのは、素直な好奇心と、相手の困り事に耳を傾ける姿勢だけ。その姿勢の中で、顧客の声が集まり、やがて「これは誰もが困っている」という共通項が見えてくる。
AIは魔法ではなく、考える相手である——実践から学んだ使い方

AIを過信することは危険だ。
開業から2ヶ月目、僕は「ChatGPTが出した企画案をそのまま顧客に提案する」という誤りを犯した。結果は、惨敗。顧客の現場を知らない提案だったからだ。
その失敗を通じて、僕が理解したのは、AIは「業界や現場の文脈」を持たない、ということだ。あたり前のことなんだけど、使い始めのころは見落としがちだった。AIが出力した案をベースに、自分の経験や現場知を加えて、初めて「売り物」になる。
AIは相談相手であって、判断者ではない。最終的な責任と選択は、人間が取る。その覚悟を持って使うことが、AI活用の肝だと思っている。
名刺がなくても、「何か」は始められる

開業初日の僕には、会社名も住所も、実績も肩書きもなかった。
あるのは、ノートパソコン、ChatGPTのアカウント、そして「現場を変えたい」という、ぼんやりとした想いだけ。社会的に見れば、最小限のリソースだ。
だが、その最小限の状態からでも、事業は始められる。なぜなら、リソースが限られているからこそ、「本当に必要なものは何か」という問いが研ぎ澄まされるからだ。
金も人も信用もない状態では、無駄は一切許されない。その厳しさの中で、自分たちが本当にやりたいことが、逆に明確になる。僕の場合、それが「現場の人のお役に立つことに、AIを使う」という、シンプルなビジョンだった。
ゼロから「ippo」へ——小さな一歩の重ねかた

2023年4月から今まで、僕たちが積み重ねたのは、「ippo」(一歩)の連続だ。
最初のプロンプトから始まり、顧客との対話、そしてAIを使った試行錯誤。その一つ一つが、小さいながらも確実な前進だった。大きなジャンプを狙わず、目の前の一歩を積み重ねる——それが、ゼロから事業を組み立てるコツだ。
今、多くの人がAI活用に二の足を踏んでいる。理由は「完璧なプロンプトを作ってから始めよう」という過度な期待だ。だが、完璧なプロンプトは存在しない。あるのは、試行と失敗の中で、少しずつ洗練されていく試みだけ。
恐怖も、迷いも、「始める許可」である

開業初日、僕が感じた恐怖は、同時に一つのメッセージでもあった。
「お前は、何かを変えたいんじゃないか」というメッセージだ。その恐怖がなければ、僕は快適なサラリーマン生活を続けていただろう。恐怖は、変化へと背中を押してくれる感情なんだ。
AI活用も同じ。新しいツールを前にした不安感は、「このツールで何かできるんじゃないか」という可能性の予感。その予感を大事にすることが、最初のプロンプトを打ち込む勇気につながる。
現在——失敗と学習の中で、事業が形を持ち始めた

現在、僕たちが行っているAI活用は、当初の想像をはるかに超えて進化している。
ChatGPTとの最初の対話から始まった「考える」プロセスは、やがてクライアント企業のコンサルティングへと発展した。その過程で、何度も失敗した。企画が的外れだったこともあれば、AIの限界にぶつかることもあった。
だが、その失敗の一つ一つが、「AI活用の現場知」として蓄積されている。「名刺もゼロ」の状態から、「AIを使ったビジネス設計」へと至った道のりは、決して派手ではなく、泥臭い試行錯誤の連続だった。
あなたが最初のプロンプトを打つために
この記事を読んでいる人の多くは、AIを使いたいと思いながらも、最初の一歩が踏み出せていないのだろう。
その理由は、簡単だ。完璧さを求めているからだ。「正しいプロンプトは何か」「AIを使う資格があるのか」「失敗したらどうしよう」という問いかけに、手が止まってしまっている。
僕が提案するのは、こうだ: 今、あなたが困っていることを、そのまま質問として打ち込んでみてください。その質問が完璧である必要はない。むしろ、素人っぽい質問の方が、本当の困りごとが込められている。
AIは、その素人的な質問の中から、あなたが本当は何を求めているのかを映し出す鏡になる。その対話の中で、次のプロンプトが生まれ、さらに次の問いが深まっていく。その反復こそが、AI活用の第一歩だ。
まとめ──これだけ覚えておけばいい
独立初日、売上ゼロの朝に僕がChatGPTに打ち込んだプロンプトは、華麗な質問ではなく、素人的な問い掛けだった。その問い掛けが、現在の事業の骨組みになっている。この記事で伝えたかったことを、4つにまとめた。
- 恐怖は始まりの合図: ゼロからのスタートで感じた恐怖感は、変化への欲望を示していた。その恐怖を無視するのではなく、質問に変えることが、前進につながる。
- AIは「鏡」である: ChatGPTは答えをくれる機械ではなく、自分の考えを映す鏡。試行錯誤の中で、その鏡像に自分の課題が浮かび上がる。
- 完璧なプロンプトは存在しない: 素人的で不完全な質問から始まり、対話を通じて少しずつ洗練されていく。その泥臭い過程こそが、AI活用の実践だ。
- 最初のippoは「困りごとをそのまま質問する」こと: あなたが今、仕事で、生活で、何に困っているのかを、そのままAIに打ち込む。それが、あなたの「開業初日の朝」の第一歩になる。
今、あなたの目の前にもパソコンがあり、ChatGPTのアカウントがあるだろう。その第一歩を踏み出す勇気は、既に持っている。あとは、その恐怖を質問に変えるだけだ。
出典・参考情報
- 著者・ぐっさん(生成AIビジネス活用研究所 代表)の開業経験と現場実績に基づく。
- ChatGPT公式ドキュメント: OpenAI API Documentation
- トヨタ自動車での24年間の品質管理経験に基づく業務改善知見。
📊 ippo の無料サービス
合同会社 ippo / 代表 ぐっさん (山口高幸)
